退院支援の現場で、最もトラブルになりやすいのが「家族との情報共有」です。長年MSWとして関わってきた経験から、話し合いの場を設けるときに必ず意識していることをお伝えします。

① 決定権のある家族には必ず来てもらう

退院先や今後の生活についての話し合いは、その場で決められる人が来ていないと何も進みません。話し合いの場には、決定権のある家族に必ず同席してもらうことが鉄則です。

💡 こんなことが実際にあります:
話し合いでA病院への転院の方向で動いていたところ、遠方に住む娘さんから「B病院にしてほしい」と直接電話が入ってきた。話し合いに参加していなかった家族から後になって違う意見が出て、決まっていたことが振り出しに戻る——こうしたケースは珍しくありません。

「来られなかった家族に後で話す」ではなく、最初から全員で同じ場で決めることが、このトラブルを防ぐ唯一の方法です。

② 話を聞いておくべき家族も呼ぶ

決定権はなくても、後々関わってくる家族には同席してもらうことをすすめています。介護に関わる可能性のある兄弟姉妹、遠方の家族なども、できるだけ来てもらいましょう。

「後から知った」「自分は聞いていない」という状況が、家族間のトラブルに発展することがあります。

💡 どうしても来られない家族がいる場合
参加が難しい家族がいる場合は、当日参加される家族に事前に意見を聞いておいてもらうよう伝えておくと有効です。「○○さんはこう言っていた」という形で、その意見を当日の話し合いに持ち込んでもらいましょう。
また、話し合いの前に家族間でおおむねの意見をまとめておいてもらうことも、スムーズな話し合いにつながります。「家族全員で話して、方向性は一致している」という状態で臨むと、その場での混乱を防げます。

③ 病院・担当専門職・家族、三者で同じ話を同じ場で聞く

退院後の生活に関わるケアマネージャーや相談支援専門員には、家族との話し合いの場に同席してもらうようにしています。

病院が担当者に説明し、担当者が家族に説明する……という「伝言ゲーム」になると情報にズレが生じます。三者が同じ場で、同じ話を、同時に聞くことで、認識のズレをなくすことができます。

💡 可能であれば医師にも参加してもらう
医師がいるのといないのとでは、場の重みがまったく違います。本人や家族にとって、医療者と直接話せる機会はとても貴重です。普段の診察では聞けないことも、こういった場ならざっくばらんに話しやすくなります。

④ 電話の一対一は「言った言わない」になる

電話での一対一のやりとりは、「言った言わない」のトラブルになりやすいです。

電話は日程や時間を決めるための連絡手段として使い、大切な話は必ず対面で、複数人で行うことを基本にしましょう。

⚠️ 電話は「日時を決めるだけ」。話の内容は対面で。

⑤ 返事には必ず期限を伝える

「他の家族と相談して答えます」「退院日は家族に確認しないとわかりません」——こうした場面では、必ず期限を伝えることが重要です。

「○月○日までにご連絡ください」と明確に伝えましょう。期限を伝えないと、返事がいつまでも来ないことがあります。退院日の調整・転院先の選択、どんな場面でも「いつまでに」をセットで伝えるのが、スムーズに進めるための習慣です。

⑥ 金銭管理をしている人を把握する

退院先・サービス・施設、どの選択にもお金がついて回ります。そのため、誰が本人の金銭管理をしているかを早い段階で把握しておくことが重要です。

  • 本人自身が管理していることもある
  • 同居している家族が管理しているとは限らない
  • 遠方に住む子どもが管理していることがある
  • 本人とは別の親族が管理していることがある

金銭管理をしている人が話し合いに参加していないと、「費用の面で決められない」「後から確認が必要」となり、話し合いが前に進みません。決定権のある家族と合わせて、金銭管理をしている人が誰かを確認し、必要であれば話し合いの場に来てもらうことが大切です。

⑦ 家族自身の状況を確認する

話し合いに来た家族が、実は自分自身も大変な状況を抱えていることがあります。

  • 持病や障害がある
  • 最近退院したばかり、または手術を控えている
  • これから抗がん剤治療が始まる
  • 仕事を解雇された、勤め先が倒産したばかりで経済的に不安定
  • 自身も介護や育児で手いっぱいの状況

こうした事情は、自分から話してくれるとは限りません。しかし、会ったときの表情や仕草、言葉の端々に「何かある」と感じることがあります。経験を積むほど、そのサインを早めにキャッチできるようになります。

💡 家族に課題がある場合、退院後の介護力はそのまま当てにできません。

あるケースでは、以前の入院時に主介護者として支えてくれていた方が、今回の入院中に重い病気が発覚し、介護への協力が難しくなりました。それによって退院の方向性がまったく変わりました。

「前回と同じキーパーソンが同じように動いてくれる」とは限りません。そのときの家族の状況を、毎回改めて確認することが大切です。

⑧ 話し合いの内容を記録・文書化し、参加者と共有する

決まったことは口頭だけで終わらせず、記録に残しておきましょう。現在は、話し合いの場で録音が行われることもあります。それを踏まえても、書面にまとめて参加者全員と共有することが最も確実です。

  • 決まったこと・確認したことを文書化する
  • 参加した家族・ケアマネージャー等に同じ内容を共有する
  • 「言った言わない」のトラブルを防ぐ
  • 全員が同じ情報を持って動けるようにする

⑨ 事前に議題を伝えておく

話し合いの前に「当日はこういうことを決めたい」と家族に伝えておくと、家族も心の準備ができ、話し合いがスムーズに進みます。当日になって初めて内容を知ることで、家族が動揺したり判断が遅れることを防げます。

⑩ 遠方の家族にはオンライン参加も検討する

どうしても来られない家族には、ビデオ通話での参加を提案することも一つの方法です。顔を見ながら話せることで、電話よりも誤解が生じにくくなります。

まとめ

  • 決定権のある家族を必ず呼ぶ:その場で決められる・後のトラブル防止
  • 関係する家族も呼ぶ:「聞いていない」問題を防ぐ
  • 担当専門職も同席させる:伝言ゲームによるズレをなくす
  • 電話は日程調整のみ:言った言わないを防ぐ
  • 返事には期限を伝える:返事が来ない状況を防ぐ
  • 金銭管理者を把握する:費用の決定権がどこにあるかを早めに確認
  • 家族自身の状況を確認する:介護力の見誤りを防ぐ
  • 話し合いを記録・共有する:決定事項を全員で共有・トラブル防止
  • 事前に議題を伝える:家族が準備でき、話し合いがスムーズになる
  • 遠方家族はオンライン参加も:来られない家族の声も拾う